2022年8月12日、酩酊麻痺による8曲入りの3nd作品『存在としての意志』が自主レーベル・吐く月よりリリースされる。酩酊麻痺は、2019年に東京で結成されたヒ(Vo,Gt,1/2Drums)とマリン(Piano,Synth,1/2Drums)による女性2ピースバンド。今回は、2019年11月の4曲入り1stカセット『いらっしゃいませ』 、2020年7月の6曲入り2nd CD『ある爆発的な何か』につづく、2年ぶりの作品となっている。
リリース開始日の当日に初のワンマンライブが下北沢LIVEHOUSで控える酩酊麻痺のふたりに、『存在としての意志』の話をうかがった。
ふたりの"在り方"で、どんどん空気が変化していく感じです。
-前作の2nd CD『ある爆発的な何か』に収録されているオープニング曲「如何にか斯うにか」に、「過ぎ去ったことだけが存在する 越えていく時の方向を定め 祈りではなく今意志を持て」という歌詞があります。「存在」「意志」と、今回のアルバムタイトルと重なる印象を受けましたが、そのあたりを起点にして作品制作がはじまったのでしょうか。
ヒ タイトルは、最初にアルバムに使いたい曲を選んで、順番に並べてから決めています。曲もそうなんですけど、コンセプトがあって作るわけではないんです。毎回、毎回、わたしが歌詞を書いて、メロディーに乗せて、マリンに投げて、フィードバックされてできあがっていきます。
マリン 曲ができたばかりのときはまだ、ふたりとも曲のことがわかってないんです。そのあとにライブで演奏して、お客さんに聴いてもらってからより理解できて、ようやく曲が完成していきますね。
ヒ 作曲者はわたしだけれど、その後のこと次第で、曲は何度も生まれ変わります。ふたりの“在り方”で、どんどん空気が変化していく感じです。
-アルバムタイトルにある“存在”に繋がっていく話ですね。酩酊麻痺の楽曲からは廃墟感だったり深海感だったり、ときとして異世界の風景が漂ってきますが、それと同時に生活感や日常感、つまりふたりの存在感も伝わってきます。
ヒ 歌詞を作るとき、日常の感情、それしかないんです。じぶんの日記の抜粋、延長のような感じで。もちろんストレートにぶつけることはありませんが、超具体的ないくつかの出来事が歌詞には混じっています。
マリン 以前、ライブの帰りに音源を聴いていたとき、とても驚きました。唄が叫び、キダーが凶暴に襲いかかりながら、彼女はあそこまで、じぶんを曝けだせるんだ、と。言葉の選択をふくめ。センスの塊だなあと、いつも憧れています。
ヒ でも、けっして個人の物語ではなく、ふたりが向き合ったときに生まれるものも多いんじゃないかなあ。
マリン 今回のアルバムだと、6曲目の『茎と私』にいちばん、そんなライブ感が詰まっているかもしれません。激しい楽曲のなかに、気持ちがもっとも入ってくる感じです。
-前作の『ある爆発的な何か』は、淡々とリスナーを引きずりこむ雰囲気もあったのに対して、今回の『存在としての意志』はライブ感も強まってますよね。どこか、新しい一歩を踏みたしたようにも思えました。
ヒ そうなりたかったんです。じつは、カーステレオで聴けるような、ドライブでも違和感ないアルバムをめざしたりもしています。『ある爆発的な何か』は、コロナのはじまった頃の、めちゃくちゃイライラしているなかで作ったのですが、『存在としての意志』は一歩明るいところへ向かいました。
-さきほども触れた『ある爆発的な何か』の「如何にか斯うにか」にも、「苛立ちばかり増していくよ」という歌詞がありました。
ヒ あの頃は、すごい緊張感もあり、世界が終わりそうな気分でいましたね。
-そういえば、ライブでの楽器編成も変化しています。以前は、ヒさんが唄とギター、さらにドラムを解体してバスドラムを踏み、タムとシンバルも叩いていて、マリンさんがキーボードとシンセサイザーを弾き、スネアという分担でした。それがいつしかタムとシンバルが移動し、ハイハットもマリンさんが担当しています。
ヒ いまは気持ちがバンドモードになっていて、もっとギターを弾きたくなったんです。タムを叩くとギターが弾けないので。
マリン 楽器が増えて、すっかり囲まれています。たいへんではありますが、今度、ワンマンライブのときは4人編成になるんですけど、ちょっと手持ち無沙汰になってしまって。とはいえ、握っていたスティックから左手が自由になり、両手でキーボードを弾けるので、よりパワーアップした演奏をおみせしたいですね。
-8月12日の下北沢LIVEHAUSでのレコ初イベントでは、ドラムとギターがくわわるんですよね。今後は編成が変わる可能性もあるんですか。
ヒ それは基本的にないですね。ふたりだけで、奇妙なことをやってるな、という見た目も気にいっているので。また、4人でリハに入っていてわかったんですが、バスを踏むことでテンションが上がることがわかったんですよ。大事だったんだ、大事にしたいなあと思っています。
圧倒的な感動よりも、その瞬間の流れ、全体的な印象をたいせつにしたい
-話を『存在としての意志』にもどして、それぞれの楽曲についても少し教えてください。まずはエンディング曲の『石』。じつはヒさんは、石集めが趣味なんですよね。
ヒ 大好きです。公園や河で気に入った石があると、拾って持ち帰っています。いまの家にもちょこちょこあって、実家にはたくさんあります。公園でライブをするときには、叩いて楽器として使ったりも。自然が好きなんで、つねに身近に感じたいのかもしれません。
-アルバムタイトルの“意志”とも重なっているだけでなく、たいせつな言葉でもあるんですね。そしてキーボードの繊細な音色が印象的な楽曲です。
ヒ この曲のときだけ、スタジオのローズ・ピアノというのを使わせてもらったんですが、ほんとに音がよくて、すごく感動しました。
マリン 電気式鍵盤楽器なんですが、ふつうのピアノ以上に押す力、アタックで音が変わってむずかしかったです。弱いとまったく鳴らなかったり。
-マリンさんはもともと、クラシックのピアノを弾いていたんですよね。たしかおふたりが最初に出会ったときも、ヒさんがマリンさんにピアノを教えて、とお願いしたことから親しくなったと聞いています。そういう意味では、オープニングの「ピアノ」の話も聞かないわけにはいきませんね。
ヒ この曲は、マリンのピアノだけで聴ける曲です。グランドピアノのスタジオを1日借りて作ったんですが、録音しているときに素晴らしくて泣いてしまいました。
マリン ピアノパートのフレーズはわたしが作るのですが、クラシックの感覚だからか、唄にあうものがすぐに作れなくて。ふたりで直していって、だんだんとできたんです。だから、じぶんにとってとても思い出に残る曲になってます。
-4曲目「白い点滅」と7曲目「そのままの言葉」は、朗読になっています。ライブでも1、2回しかやっていない試みだと思いますが、どの段階で入れることにしたのですか。
ヒ 最初は6曲入りで考えていて、映画のSE的に環境音として使おうとしていました。MVにもした2曲目の「吐いて吸った幻」の冒頭のブレス音のような感じで。ただ、歌詞ができあがったら長くなって、しかもカッコいいし、聴けるなと。曲として成立したので、両方とも採用しました。
-SEだけでなく、楽曲ごとの間隔にもかなり配慮されています。
ヒ 並びもふくめて、曲、曲、曲とならず、次に繋がっていく感じにしたかったんです。わざと間をもたせている曲も作って、全体的にひとつの作品になるように。
マリン ライブもおなじ感覚ですね。あえて見せ場を決めずに、すべてがまとまって伝わればいいな、と。
ヒ 圧倒的な感動よりも、その瞬間の流れ、全体的な印象をたいせつにしたい。ひとつのなにかが、いつの間にか始まっていて、いつの間にか終わっている。アルバムもライブも、そんな風に“在れれば”と。
-最後に、酩酊麻痺の核となるような言葉を頂いた気がします。本日はありがとうございました。
(2022年 猛暑の7月 方南町ヒゴロ青果にて)